雲の海を泳ぐ

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    5/20にバンダイナムコからPS3用のオンラインゲーム「エースコンバット インフィニティ」がリリースされた。人気タイトルの最新作ということで、シリーズファンを中心に盛り上がりを見せている。「ファントム無頼」や「エリア 88」を愛読してた筆者としても、もちろんエントリーしないわけにはいかない。


    「エースコンバット インフィニティ」のPV。さすが最新作、といった貫禄はあるが…。

    リアルな空を自由に飛び回ることは簡単じゃない。旅行が好きな人でもジャンボジェットを操縦する機会はあまりないと思うし、パイロット免許を個人で取得するには、バンジージャンプに挑む度胸だけでは足りず、習得期間も費用もかかるだろう。空にロマンを感じ、ラジコン機にその想いを委ねた人達は、夢を実現する前に巨額投資した愛機を失うリスクを常に伴う。それに比べると、フライトシミュレーションは比較的キラクに空との一体感を得られる優れたレジャーだと思う。ただのゲームというジャンルでくくってしまうのはもったいない。

    その昔、「THE COCKPIT」というパソコン上で動くフライトシミュレーションゲームがあった。フライト、といっても、やることはランディングのみ。ポリゴンでもスプライトでもない、ドットで描かれた滑走路に、ファイナルアプローチの状態からゲームがスタートして、無事着陸できればクリアという、シンプルなものだったが、挙動は航空力学に基いて計算されているのでリアリティがあり、故に難易度も非常に高かったのを覚えている。

    コンピューター性能の向上とともにフライトシミュレーションも多用化して、上記のエースコンバットシリーズのようなライト感覚な作品をはじめ、数多くのフライトゲームが登場。ドラクエのようなモンスタータイトルにこそならなかったが、もともとマニアックなジャンルだったフライトシミュレーションがそれなりに市民権を得たことは確かだと思う。

    ところが、ライト作品に対して不満の声を上げるゲームファンも少なからずいる。力学を無視して、誰でも簡単に飛行機を操れるフライトシューティングやフライトアクションゲームは、ピアノが弾けなくても作曲できてしまうガレージバンドのようなもので、確かにすこし手応えに乏しい。エースコンバット最新作「インフィニティ」も、過去シリーズの「ライト」な部分をしっかり継承してしまったため、100発近いミサイルを搭載したまま何事もなかったようにループを描く。その挙動は飛ぶというより「3D空間の座標を移動する」というだけのものだ。

    ゲームの方向性なので仕方ないのかもしれないけど「これじゃない」と感じてる人がいるのも確か。かといって高価なPC用の本格フライトシミュレーション導入しようにも家族の視線は冷たい。高度10000メートルに到達する前に、嫁さんという乱気流で墜落必至。そもそもテイクオフすらできない恐れもある。そんな不幸なお父さんパイロットが満足に飛べる空は、もうコンシューマには残されていないのか。


    リアルなグラフィックと本格的な挙動「蒼の英雄 Bird's of Steel」

    「蒼の英雄 Birds of Steel」というフライトゲームがKONAMIからPS3対応ソフトとしてリリースされたのは、2013年3月のことだった。それまでもPS3対応のフライトゲームはあったが、グラフィックやストーリーがすばらしくも、リアルな挙動に重きを置く作品は存在しない。カテゴリを「フライトシミュレーション」としっかりうたった「蒼の英雄」は、コンセプトからして異なるものだった。第二次大戦をテーマにした同作品は、各国の主力戦闘機や攻撃機を実機さながらに操縦することができる。その挙動はアーケード、リアル、シミュレーターから選べ、順に実機に近く、難しくなっている。ギアの出し入れはもちろん、エンジンスタート/停止やフラップ角まで操作できるゲームは、コンシューマでは見たことがない。シミュレーターモードではトリム調整もできるなど、PS3のコントローラーでは割り当てるボタンが足らなくなるくらい操作系統が充実している。(筆者は右スティックを視点にしてしまうとボタンが足らないので、デュアルショックコントローラー3のモーションコントロールを視点移動にあてて、右にスロットルとラダー操作を適用した。)ボタンを覚えるのも難しいが、機体操作はさらに難しく、ちょっと強引にスティックを入れればあっという間にストールする。最初のうちはまともにランディングするのさえ難しいのに、空母着艦ミッションなんて途方にくれまくりだ。針に糸を通す、とはこのことか。

    それでも、何度も何度もやっているうちに、機体を上手にコントロールできるようになる。そうなると、フリーフライトでただ飛んでるだけでも、ものすごい爽快感、達成感がある。ただ直進してるだけでもなぜか風を感じる。急降下すればなおさらだ。風防がミシミシ唸る音で「そろそろ危険かも」と悟る。急旋回すると遠心力で血液が下半身へ流れるため視界が暗くなる(ブラックアウト)が、そのギリギリのGがなんとなく身についてくる。機体性能だけでなく、身体性能も、このゲームの「リアル」に含まれているのだ。
    フリーフライトは空中でも終了できるが、必ず空港に着陸。ハンガーがあれば、そこまで機体を誘導して、エンジンを切って終了…という自分縛りを作っては酔いしれているプレーヤーは、筆者だけではないはずだ。


    ところで、空を飛ぶなら、真っ青な快晴の空よりすこし雲があるほうが好きだ。いや、少しどころか、かなりの悪天候すら望ましい。離着陸の難度はとてつもないが、打ち付ける豪雨に耐え、雲を抜け、やがて青空と太陽が見えた時の感覚は、群馬の山育ち(筆者)が海を見た時の興奮に似ている。死の恐怖を味わわせてくれた雨雲は、真っ白い雲海となって地平線まで広がる。その中というか上というかを小さく小さく漂う飛行機は、飛ぶというより「雲の海を泳いでいる」と表現したほうがイメージに近いと思う。空は、ただの虚無な空間ではなく、質量を持った大気という物質であり、雲はそれを視覚的に感じさせてくれる。
    そして「蒼の英雄」では、その圧力、抵抗力・浮力のようなものを、コントローラー越しに確かに感じるのだ。これはプレイした人じゃないと伝わらない感想だろう。

    残念ながら「蒼の英雄」も含め、今の家庭用フライトシミュレーションゲームでは、まだまだ満足いく雲海をリアルに再現できるほどの能力がない。たとえば、イチバンの憧れ「積乱雲を縫うように飛ぶ」イメージは、ジブリの「紅の豚」そのものだが、それもまだできない。近いものは「Battle Field3」のキャンペーンで登場するフライトミッションのワンシーン。しかし、これも一時的なもの。

    でも、技術の進歩はすさまじい。いずれはこの夢も叶うに違いない。少なくとも、筆者が操縦ライセンスを取得するよりは、ずっと近い未来に。

    それではまた、この雲の海のどこかで。グッドラック!


    評価:
    ---
    コナミデジタルエンタテインメント
    ¥ 5,699
    (2012-03-08)


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