SX-70きっかけで再燃する「フィルムカメラ魂」

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    何時頃からか、写真がつまらなくなった。以前はちょっとした散歩にもわざわざ一眼をぶら下げてたし、休みの日には小規模ながら撮影旅行に出掛けることもあった。それが今ちゃんと撮るのはブログやSNSにアップする料理くらいで、あとはスマホのカメラ機能に甘んじている。文字で伝えるのが面倒くさいことを写真で、コミュニケーションをショートカットしているような感覚だ。当然、面白くはない。この温度差はなにか。

    思い出していると、ある出来事にたどり着く。当時使っていたフィルムカメラの「PENTAX ME SUPER」が、突如壊れたのだ。絞り優先モードを備えたコンパクトなボディに、50mmf1.4のド標準レンズをつけると、ファインダー越しの景色と肉眼がちょうど一致して「見たままが撮れる」感覚が気に入っていた。ボディが壊れた後は同じレンズをデジイチにつけて使い続けたが、違和感が否めずもやもやしていた。やがてレンズも壊れ、デジ用の50mmに変えた時点で、僕の中で何かの火が消えた。以降カメラはただの道具。モノとしての魅力を感じなくなっていた。

    最近になってまたカメラに関心を持ったのは、娘の「インスタントカメラブーム」がきっかけだ。クリスマスプレゼントに、サンタもずいぶんフンパツしてくれたようで、普通じゃ手に入らないような高価なカメラを手に入れた。「LOMO INSTANT」というらしい。



    LOMOといえば、「LC-A」や「スメハチ」という、よく言えばキッチュでカワイイおしゃれなトイカメラ、悪く言えばギリギリ(アウト)レベルのカメラをなかなかの高額で売りまくってるロシアのカメラメーカー。性能はともかく、同社製品共通のなんとも言えない味のある描写に虜になるのは、血筋なのだろうか。そして、INSTANTは、フジの「チェキ」と同じフィルムが使える、インスタントカメラだ。

    インスタントカメラといえば思い浮かぶ「ポラロイド」。今となっては当時の面影はないが、写真をより楽しく、身近なものにした功績は大きい。「撮ったものがその場で見れる」デジカメでは当たり前のことだが、ポラロイドは40年以上前にそれを実現している。その走りとなった初代ポラロイド、それが「SX-70」だ。10年くらい前からほしかったカメラだが、最近ちょっとした縁でこいつを手に入れた。

    SX-70は1972年に登場、日本では74年に発売。「アラジン」の愛称が、今までになかった魔法のようなカメラだったことを象徴している。初代非剥離方式(べたべたしない)インスタントカメラでありながら一眼レフ、露出計も搭載したセミオート露出という性能で、しかも本体は折りたたみ式。革をあしらったボディは高級感がありつつもどこかカワイイという数え役満ぶり。初代からこんなにもありあまるフルスペックでリリースされた例、他では「ガンダム」くらいしか思い当たらない。



    肝心の描写はというと…ユルイ!ピントはいまいち、写真のフレームよりは不安定。オーバーもアンダーもあたりまえだし、温度で色も変わるし、そもそも発色が悪い。おおよそのフィルムカメラと比較しても、及第点には程遠い仕上がりである。オーディオで例えれば、真空管のアンプで、ソノシート(懐かしい)を聞いているような感覚だろうか。ところが、この「ユルさ」こそが、SX-70最大の魅力なのだから、困ったものである。



    お世辞にも高品質とは言えない仕上がり。しかしなぜか、デジカメでは動かなかった心が揺さぶられる。淡く、遠く、懐かしく、切ない。ついさっきシャッターを切ったのに、随分前のことのような錯覚を覚える。SX-70は見たままを写すことはできないが、時間を戻して、止める機能がある。



    最近、写真に「重さ」を感じたことはなかった。物理的にも、コスト的にも、心情的にも、だ。いろんな意味で、今写真は「軽く」なっている。有り難い一面もあるが、それ故、本来の写真の面白さが淘汰されていくのは許しがたい。それにしても、最先端のハイスペックデジカメではなく、こんな超ユルいフィルムカメラで写真の面白さを思い出す、というのも、どこか皮肉である。

    仕事が尋常じゃなく多忙な昨今、なんやかや「癒やし」を求める今だからこそ、また、フィルムにたどり着いたのかもしれない。SX-70を譲ってくれたSX-70 by SWEETROADさんに感謝!。そしてもし、天文学的確率でこのブログに気づいたら、今度はPENTAX MXの黒ボディを見繕って下さい。

     

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